PUPPIES3.JPG - 16,775BYTES

親睦と融和へ

 当地から優れた秋田犬を迎えた人が最寄りの展覧会を愛犬を引き連れて見学した際、触発されて、「自分もいつか出してみたい」という気持ちになることがある。そうした場合の多くは、「良い犬を持ってるね。今度出してみたら?」と、出陳者や会場で出会ったベテランなどに勧められたりするケースである。

 秋田犬の子を迎えた際には「あくまで家族の一員として」と、展覧会にはまったく関心がなかったのが、展覧会場を訪れた際に「出してみたい」という気持ちに駆られるのは、それはそれでいいことかも知れない。ただ、残念なのはいかに優れた犬で展覧会に臨み、誰が見ても自分の犬の方が優れているにもかかわらず、明らかに劣っている犬の方が順位を上につけられる場合が往々にしてあること。

 無論、すばらしい素質を持った犬でも、初心者がハンドラーとしての技術や展覧会に向けた管理についてまったくノウハウを身につけずに出陳しても、期待どおりの順位を獲得することはできないが、実はそれだけではない。展覧会の初出陳者を含む一般の秋田犬愛好家が、ある程度の技術を身につけた上でいかに優れた犬で出陳しても、期待どおりの順位にならない理由について、全国の審査員から「先生」と呼ばれる審査員歴20年の大ベテランはこう指摘する。

 「多くの犬を見て勉強せずに、机上で秋田犬を学ぼうとする審査員が増えている。つまり、審査員のレベルが落ちているということ。そして、秋田犬専門業者が大きな力を持つ地域ほど、状況は悪い。業者の影響力が強ければ強いほど、その業者の息のかかった犬の順位を押し上げようという動きが出てくる。上位の賞を獲得することによって、受賞犬を高く売ろうという意図が背景にある」と。

 そうした"作用"で、純粋に秋田犬を愛する一般の出陳者はいかに優れた犬で展覧会に何度臨んでも、期待どおりの成績が得られず、やがて内情が見えてきて、「展覧会に出すのはもうやめた」ということになる。前述の大ベテランはこの状況が展覧会の健全性を阻害していると受けとめ、「いずれ一般の愛好家は誰も出陳しなくなり、展覧会そのものが今後さらに衰退していくだろう」と危惧している。

 展覧会の本来の目的は「親睦と融和」。しかし、残念ながら今は、秋田犬の商品価値を上げるための場になりがちだ。無論、純粋に秋田犬を愛し、交流を深め、切磋琢磨したいと願って出陳する参加者も全国には数多くいる。そうした人々の秋田犬への愛情を無にしないための試みとして、当地秋田県大館市では毎年7月に春の本部展会場の桂城(けいじょう)公園で、秋田犬飼育者にとってきわめて意義深いイベントが開かれている。

 「観賞会」と呼ばれるそのイベントは、従来の展覧会のように1席、2席といった順位をつけず、持ち寄った秋田犬をみんなで眺めながら批評しあう。見物客も多い。その犬の素質や状態によってA、B、Cの評価をもらうが、「今回はBだったので、次はAになるようにがんばろう」と和気あいあいの中で犬質向上への意欲を高めあう。最も良い点は、誰も悔しい思いをしなくていい、ということ。

 発案者は前述の大ベテランで、「地元大館はもとより、岩手、青森など近隣県からも参加し、頭数は支部展以上。展覧会は出陳者が目の色を変えるが、観賞会には親睦と融和の精神が反映されている。展覧会よりも観賞会の方が楽しい、という参加者も多い」と話す。観賞会は昼までに終了し、午後からは家族同伴での親睦会が開かれ、酒や肴を囲んで秋田犬談義に花を咲かせる。

 現状の展覧会運営ではいずれ一般の愛好者が離れていくのが目に見えている中で、大館市で数年来行われているこの試みは、秋田犬への理解と愛情をさらに深める意味でも、価値があるのではないか。純粋な秋田犬愛好者を1人でも多く増やし、親睦と融和をはかる上で、観賞会は全国各地で開催するに値すると考えるが、いかがなものだろう。

HOME