BANNER0808.JPG - 66,727BYTES

「もぐ」に"市民権"

 2015年を皮切りに「わさお」の生まれ故郷、青森では毎年1回、長毛秋田犬だけを参加対象とする「わさお大賞コンテスト」が開かれている。「もぐ」って?と題するコラムで取り上げたように、東北では一定の年齢以上の人らを中心に長毛犬を「もぐ」と呼ぶことが多い。秋田犬展覧会最高峰に位置付けられる「名誉章」や本部展での1席獲得に長年情熱を傾けるベテラン犬舎は、自犬舎で「もぐ」が生まれると、「大会で使い物にならない」と落胆する。

 一方で、長毛秋田犬には「わさお」に代表されるような独特の"風情"があるため、展覧会とまったくかかわりのない人らの中には、あえて「もぐ」と暮らす例も全国には少なくない。わさおを紹介している当クラブは、長毛秋田犬を礼賛もしなければ否定もせず、あくまで客観的に見ているつもりである。

「わさお大賞コンテスト」の主催者、Aさんは高視聴率を誇る民放の動物番組に複数回出演したことでも知られる一方、たとえ長毛犬でも本来の秋田犬と同様命を永らえてほしいとの願いから「もぐ」を希望者のもとへ旅立たせており、それを苦々しく思う輩が「2ちゃんねる」などで辛辣にこきおろしたりしている。

 そうした"逆風"にもめげず、Aさんは毎年「わさお大賞コンテスト」の開催に孤軍奮闘している。「もぐも可愛いんだよ」という単純な発想ではなく、彼には独特の考え方がある。「ヨーロッパなど外国では、産まれたのが『もぐ』との理由で命を絶つことはできない。それは日本以上に厳しい」と前置きし、なぜ日本で開催し続けるのかを語った。

 彼の見解を要約すると、こうである。日本から海外に旅立った秋田犬が、「もぐ」を産んだとする。産まれた長毛犬を日本人が"欠陥品"として否定するなら、その"欠陥品"を生み出した犬をなぜ売りつけたのか、となる。つまり、「もぐ」は決して"欠陥品"ではないことを、まず日本人が認知しなくてはならない。

 そのための取り組みとして「わさおの里」青森で長毛秋田犬のコンテストを開き続けてきた。「『もぐ』を大切にしない日本の現状に対し、いずれ海外の秋田犬愛好家から批判を浴びるのは目に見えているし、事実、一部からそうした声も聞かれる」と、Aさんは力説する。わさおが「ブサカワ」などと揶揄されるように、長毛秋田犬が単に可愛いからではなく、日本人が海外から白眼視されないようにするための取り組み、と解釈できる。

 回を重ねるごとにコンテストは認知度を高めつつあるものの、まだまだ「こじんまり」感は否めない。今後さらに盛り上がることを期待しつつ、彼の孤軍奮闘ぶりを見守っていきたい。  (内容更新:2019年3月13日)

HOME