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秋田犬の満タン
 
「まだ、満タンではない」「8割程度だ」「ピークを持っていくのがむずかしい」とは、当地秋田犬発祥地の熟練オーナーがよく使う言い回しです。これは何を表現しているのでしょうか。答えは毛。「満タン」とは毛量が豊かな状態で、「8割程度」とは完璧な毛量を10とした場合、まだ8割程度にとどまっていることを差します。また、「ピーク」は展覧会当日に向けて最高のコンディションづくりをすることを意味しますが、「ピーク」の最も大きな要素となるのが毛量です。

 つまり、これらの言い回しは展覧会への出陳を前提にしており、展覧会に興味のないオーナーは、さほど使わないか、まったく使わない表現といえます。手塩にかけて磨き上げた犬で出陳するオーナーも、「満タンでなければ絶対に出さない」という人もいれば、そこそこの状態で出す人、最低に近い状態でも平気で出す人がいるなどさまざまです。いずれにせよ、秋田犬は毛がふっくらとした状態が最も美しく、それによって秋田犬独特の風格が出てきます。

 冬など寒い季節は毛の量が多く、真夏など暑い季節は少ないといえますが、それだけではなく、管理状態や体調、血統にも大きな影響を受けます。春、秋の展覧会にピークを持っていき、満タンの最良状態で出陳するのはむずかしく、大ベテランですら「この犬は展覧会になかなかピークが来ない」と、こぼすほどです。むしろ、満タンで出陳するのは至難の技といえるでしょう。

 また、室内飼育の秋田犬は、基本的に温度がほぼ一定している生活環境の中にいるため、毛が多くなる必要に乏しく、満タンの状態は期待できません。従って、「短毛」傾向が表れます。たとえ最高の素質を持った秋田犬であっても、飼い主と一緒に家の中で暮らしていれば、展覧会での好成績など望むべくもないことになります。

 寒冷地のあるオーナーは、犬を常に満タン状態にしたいがために、半ば冷蔵に近い部屋で暮らさせているそうです。常に寒い環境下に置かれているわけですから、寒さに対する生理反応として毛は満タンにならざるを得ません。そうすることによって、展覧会でも好成績をあげているとのことです。"勝負師"としてはあっぱれですが、これは犬に肉体的、精神的負担を強いていることになり、「馬鹿げた行為。これじゃあ、犬を早死にさせる。真の秋田犬飼いではない」と批判する人もいます。

 当地の大ベテランにいわせると、東北、北海道のような寒冷地は概して毛が多く、南の地方は比較的スリムな傾向が見受けられるとのこと。寒い土地は毛がふっくらとし、暖かい土地はその傾向にやや乏しいため、何とか満タンにしたいということで温暖地域の飼育者が冬になると、寒冷地の飼育者に管理を委託するケースもあります。

 北国から満タンで出陳した犬が、温暖地域の展覧会で好成績をあげるかといえば、いちがいにそうともいえません。「温暖地域の審査員は満タンでない犬を見慣れているため、満タンの犬には毛が多すぎるという評価を下す場合もある」と、前述の大ベテラン。「秋田犬は本来、満タンがベストの状態。どの地方であれ、審査員はそれをきちんと評価できなくてはいけない。でないと、秋田犬標準の統一性に欠ける」と苦言を呈しています。

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