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綱の持ち方

 このコーナーでは、展覧会での引き綱の持ち方に少し触れてみましょう。本部展会場で見物客から、ある疑問が聞かれました。「綱を垂直に引き上げているのを見ると、犬の首を吊ってるみたいでかわいそうだね。あれで苦しくないの?」。確かに、ハンドラーが綱を90度に立てて持つあの姿に対し、素人さんからはそんな疑問が湧くかも知れません。

 「吊る」状態について、全国の審査員の指導的な立場にある方は「あのように吊り上げた状態で審査員に見せるのは決してよくないのだが、今では一般的な形になってしまった。いずれ是正していかなくては」と指摘しています。

 ハンドラーは、犬から1メートル離れた状態で審査員に見せるのが本来のあり方です。「吊る」ということは、ハンドラーの脚が半ば犬に接触している、あるいはそれに近い状態です。これに対し、1メートル離れた姿は綱がほぼ45度になる、いわば散歩でもしているようなリラックス状態です。

 ではなぜ、審査会場で「吊る」のが当たり前になってしまったのでしょうか。前述の元審査員によりますと、そうすることによって犬の顔をできるだけよく見せられるという考え方が定着してしまったからだといいます。綱で首を垂直に吊り上げると、綱から上の部分、つまり首から顔にかけてふっくらと膨らんだように見え、犬の顔そのものが豊かな印象を与えます。多少貧相な顔でも、豊潤に見えるわけです。

 また、吊り上げることによって、どんぐりまなこ気味の犬も切れ長な、いわば切れ味の良い眼になります。ベテランハンドラーの多くはそうした"効果"を知っていて吊り上げるのに対し、初心者の多くはそうした特徴が表れるのを知らずに、吊り上げるのが「当然なのだろう」という感じで、見よう見真似で吊り上げたりします。

 ただ、吊り上げることできわめて大きなマイナスがあることを、ハンドラーの少なからずが理解していません。「首だけではなく、体そのものを吊り上げるのに近い状態なのだから、前脚が真っ直ぐに立ち、棒状になってしまう。審査時は、膝関節にゆとりを持たせてゆったりと立たなくてはならない。棒状の脚の犬は減点される」と前述の元審査員。強めに吊り上げるがゆえに、中には爪先立ちに近い状態で立たされている、本当に苦しそうな犬も時おり見かけます。

 吊る姿勢は犬に緊張を強いるため、犬の疲労度も増します。その結果、犬の側も審査終盤まで緊張感を持続できずに、最後には疲れてうまく立たなくなることもあります。手馴れたベテランハンドラーは、審査員がこちらを見ているときだけ吊り上げ、審査員が別の犬を審査しているときには綱を45度にしてリラックスさせています。

 いずれにしても、「吊る」のは好ましくない風潮で、審査のあり方を見直しながら是正していかなくてはならないでしょう。別の日本犬団体に属するある方は、秋田犬本部展を見てこう言いました。「あれ? ここは吊っていいの? 私のところは一発で失格、退場だよ」。

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