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メスに関する一考察

 ある支部展でのこと。熟練審査員が審査中、ハンドラーに「この犬=写真右=は、まだ子を産んでいないですね」と言いました。3歳を過ぎた犬を一目見て、審査員はそう指摘したのでした。熟練審査員ともなると、一見して判別できますが、一般の秋田犬飼育者には子犬の出産経験の有無の見分けはむずかしいです。 ということで、このコーナーでは秋田犬界屈指の大ベテランオーナーが幾多の経験に基づいて結論に至った、メスに関する考察を紹介してみましょう。

 前段の話に戻りますが、なぜ熟練審査員はそのメスにはまだ出産経験がないと考えたのでしょう。結論から申しますと、そのメスはメスであってメスではない、中性化してしまっていたからです。

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 大ベテランオーナーが長年の経験の末、たどりついた結論はこうです。「3歳ぐらいまでに1度も出産経験がないと、メスの場合、ホルモンバランスに何らかの変調をきたし、メスとしての特性が失われる可能性がある」ということ。実際に、前述の犬と子犬を幾度も産んでいるメスを並べてみたところ、外見に明確な違いがみられました。

 まず腰の部分ですが、出産経験のあるメスはゆったりと丸みを帯び、非常に"女性的"なのが分かります。 これに対し、一定の年数になっても出産経験のないメスは腰に丸みが乏しく、逆に筋肉質の"男性的"な外見をしています。そして、お尻が小さめで、よくいえば「キュッと締まってカッコいい」とも取れますが、逆をいえば出産経験のあるメスより貧弱な印象は否めません。

 外見的な違いは胸や肩、背中、四肢とほぼ全体に表れます。また、授乳経験がないため、乳房にいくぶん退化傾向がみられ、将来的に子を産めたとしても母乳の出は、出産経験豊かな母犬に比べて乏しいこともあり得るとのことです。

 出産経験のない前述の犬を、2度交配してみました。出産経験のあるメスと同様に発情期を迎えるのですが、交配しても受胎はしませんでした。これは、発情期を迎えてもまったく交配しない状態を繰り返していると、受胎しないか、きわめて受胎率が低くなることを意味します。

 前述の大ベテランオーナーによると、オスは発情期を迎えて交配しない状態を繰り返してもメスのように中性化することはないとのことですが、メスはメスであってメスでなくなります。いざ子を取ろうかという気になったとき、その犬を「メス」に戻してやるには大変な根気と努力が必要です。「獣医師に排卵誘発剤を投与してもらうことも可能だが、これはタイミングを一歩間違うと大変なことになる」と同オーナー。

 以前、こんなことがあったそうです。展覧会で1席を獲る優秀なメスながら前述のような中性犬になってしまったため、妊娠を促進する薬品を獣医師が使用したところ、受胎こそしたものの、すべての子犬が見るも無残な奇形で生まれました。このベテランオーナーは、獣医師の力量に天と地ほどの差があることをいやというほど知っているため、とにかく薬品、薬物の使用には神経質です。

 つまり、ここでの教訓は中性化してしまったメスに子を産ませるために獣医師にかかる際は、その獣医師がしっかりとした技術をもっているのかどうかを知っておかないと、子犬どころか母犬までもだめにする危険性があるということです。ただ、誤解していただきたくないのは、獣医師に対して懐疑的なのではなく、「中性犬に健康な子を産ませたいなら、十分な経験と実績、信用のある獣医師を選んで」ということです。

 さて、当クラブから子犬をお迎えになった皆さんの中には、あらためて「お嫁さん」「お婿さん」を迎えたいと希望する方も増えています。基本的に、家族の一員としてメスを迎えたご家族は、その犬が前述のように中性化していく可能性はかなり高いですが、実際に中性化しても比較対象がないと「これが普通の姿」ということになります。

 このコーナーでは「メスの場合、交配して1度は子を産ませてください」と奨めているのではありません。メスに関する1つの考察として紹介したもので、一生子を産む機会がないメスでも、その存在だけで家族に大きな充実感を与えているなら、家族にとってもその犬にとっても幸福なことに変わりはありません。最後に、子を産んでいないメスの最大の"利点"は、何度か子を産んだメス以上に長寿傾向が強いということです。無論これは、そのメスが事故や致命的な疾病にかからないことが大前提ですが。

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